IBS(過敏性腸症候群)は、腸の検査や血液検査で明らかな異常が認められないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感を伴って、便秘や下痢が続く病気です。以前は過敏性大腸(かびんせいだいちょう)といわれていましたが、小腸を含めた腸全体に機能異常があることがわかってきたため、過敏性腸症候群と呼ばれるようになりました。
この病気は、日本を含む先進国に多い病気です。日本人では10〜15%に認められ、消化器科を受診する人の3分の1を占めるほど、頻度の高い病気です。発症年齢は 20〜40 代に多く、男女比は1対1.6で、やや女性に多くみられます。症状が重い場合には、電車や車の中で急にトイレ に行きたくなるため、学校や会社に行けなくなったり、外出を控えるようになったりなど、生活の質を低下させてしまうケースもあります。
下痢や腹痛は誰しもが経験する症状であり、それ自体が珍しいことではありません。
しかしそれゆえに、「ただの下痢や腹痛だから」と当たり前のように受け入れてしまい、そこに病気が潜んでいたとしても気づきにくい場合が多いようです。
こんな経験はありませんか?
- 通勤途中の車(電車)の中でおなかが痛くなる
- 通学途中におなかが痛くなる
- 大事な会議の前におなかが痛くなる
- 試験の前におなかが痛くなり、集中できない
- 旅行中、急におなかが痛くなり、トイレを探す
- おなかがやたらゴロゴロする。
症状別タイプ
1、下痢型突然、便意が襲い、下痢になるタイプです。通勤電車などで下痢になった経験があると、その時の不安感がストレスとなり、通勤電車などに乗るたびに下痢が起こりやすくなります。軟らかい便や、水のような便が25%以上ある場合を指します。
2、便秘型腸管がけいれんを起こし、便が停滞してしまいます。そうなると、便から水分が奪われ、固くなった便はコロコロとした形になり、ますます便が外に出てきにくくなり、便秘が悪化します。硬い便やコロコロした便が25%以上ある場合を指します。
3、交代型上記の「下痢型」と「便秘型」の症状を交互に繰り返してしまう症状です。
4、分類不能型上記のいずれも満たさないもの。
その他、腹部膨満感、腹鳴(ふくめい)(おなかがごろごろ鳴る)、放屁などのガス症状も比較的多くみられます。このように、過敏性腸症候群では、腹痛やガス、下痢、便秘といった症状が起て、 日常生活に支障をきたす場合があります。ストレスによって起こることが多く、それで症状が起きてまたストレスとなると悪循環になってしまうこともあります。 また、腸は第二の脳といわれるように、脳と腸は「脳腸相関」といわれる密接な関係があります。 腸管には「腸管神経叢(ちょうかんしんけいそう)」があります。 腸管神経叢は、脳と関連した神経管から発生していて、脳がストレスを感じると、その刺激が腸管神経叢に伝わります。
そして、腸管が反応して便通異常やガス、腹部膨張感や腹痛となります。 その症状が、今度は逆のルートで脳に不安や緊張などのストレスを与え、頭痛、疲労感、不安感、 集中力の欠如など、さまざまな消化器以外の症状をひきおこします。 このように、「過敏性腸炎症候群」の患者さんは、この信号が伝わりやすくなっているため、腸が過剰に反応してしまうのです。また最近では、このしくみにセロトニンという物質(神経伝達物質※1)が深くかかわっていることや、セロトニンをコントロールすることで、ストレスがあっても症状を抑えられることがわかってきたのです。
治療について
薬による治療や、食事療法、生活指導を行います
治療においては、「命に関わることはないが、経過が長く完全に治ることが少ない」というこの病気の性質を理解することが必要です。また、症状の完全な消失にこだわらず、日常生活のなかで病気とうまく付き合っていくことも大切です。
1、薬による治療整腸剤、腸の緊張や痛みをとる鎮痙剤、止痢剤、安定剤、漢方薬などを用います。最近では新しいタイプの治療薬として、腸のセロトニンに働きかけ、早い段階から確実に症状を改善する薬も用いられています。
2、食事療法基本的には、腸を刺激しないようにするのが大切です。
・香辛料や冷たい飲食物、脂っこいものなどは避ける
・乳製品やアルコールも下痢の原因になる可能性があるため、控える
・3食を決まった時間に摂り、食事をしっかり噛んで、ゆっくり食べるよう心がける。
・食べすぎ、食事を一気にかきこむということは避ける
・水分や食物繊維を多く摂れるような食事に心がける
3、運動療法適度な運動は腸の働きを整える効果が期待できるほか、気分転換・ストレス解消にもなります。体操や散歩などの軽い運動を生活に取り入れましょう。